Roots of Hibino

ヒビノのルーツ

第5章 飛躍期 2004─2014 進化への序章

第1節 世界のトップメーカーが認めた当社製LEDディスプレイ・システム

第35回東京モータショー2001 スバルブース。東京モーターショーでヒビノクロマテック社製LEDディスプレイ・システム初運用
第35回東京モーターショー2001 スバルブース。
東京モーターショーでヒビノクロマテック社製LEDディスプレイ・システム初運用

ヒビノビジュアル Div.のコンサート映像サービスは、1985(昭和60)年のARB日比谷野音ライブでの成功の後、何年もの間、手探りの状態が続いた。しかし、1990年代中盤から徐々にニーズが出始め、1997年のB’zドームツアーは、本格的なコンサート映像時代への契機となった。

高輝度・省電力・軽量という特長を持つLEDディスプレイ・システムは、コンサート映像における数々の技術的な問題をクリアしていった。

上:フルハイビジョン対応LEDプロセッサーDLC-118HD 下:インターメディアコンバーターIMC-880
上:フルハイビジョン対応LEDプロセッサーDLC-118HD 下:インターメディアコンバーターIMC-880

2002年12月、ヒビノクロマテック Div.は、フルハイビジョン対応LEDプロセッサー「DLC-118HD」、またインターメディアコンバーター「IMC-880」を製品化し、6mmピッチのLEDディスプレイ・システム「GS-60」を世に送り出した。

6mmピッチの高輝度・高精細LEDパネルに加えて、先端のプロセッシング技術が投入されたDLC-118HD、そしてアナログビデオ信号からPC、さらにはHD信号まであらゆる映像信号を高精度のデジタル処理によってスムーズに入出力できるIMC-880との組み合わせは、さまざまなフォーマットの映像を高画質再生できるという点で、他の追随を許さないシステムだった。

第37回東京モーターショー2003 日産ブース。GS-60を運用
第37回東京モーターショー2003 日産ブース。GS-60を運用

可搬型でレンタル用途に適した設計がなされていたGS-60は、ヒビノビジュアル Div.が大量導入を決め、大型映像のトレンドがLEDディスプレイ一色となった第37回東京モーターショー2003において、その画質が高く評価された。その後、ドイツの映像システム会社であるICT社がGS-60を購入、第74回ジュネーブモーターショー2004のBMWブースで使用された。

ヨーロッパの高級車メーカーの多くは、モーターショー用の映像機材の選定には複数のメーカーの製品を並べて、同じ信号を入力して比較する「シュートアウト」を行った。ヒビノのGS-60は、ヨーロッパでトップシェアを誇る映像機器メーカーであるBARCO社の製品を凌駕する画質との評価を得て、BMWブースでの採用を勝ち取った。

GS-60の海外での評判はさらに波及し、Mercedes-Benzをクライアントに持つベルギーのXL Video社や、VOLVOをクライアントに持つスウェーデンのMassteknik社(現 Mediatec社)といったヨーロッパの有力レンタル会社にも販売された。同時に、ヒビノビジュアル Div.は、GS-60を購入したヨーロッパのレンタル会社各社と、機材が不足した際に互いに融通し合う「クロスレンタル」のパートナーシップ契約を結んだ。これが好循環となり、2004年度はパリ、デトロイト、北京、上海、バンコクなど海外のモーターショーでGS-60が大々的に使用された。その後、イギリスのCreative Technology社やベルギーのAED社などにも販売して、特にヨーロッパにおけるGS-60の評価は高まっていった。

ヒビノクロマテック Div.のLEDディスプレイ・システムは、2004年8月に開催されたアテネ夏季オリンピックの開会式でも採用され、世界最大のスポーツイベントにおいて、再びヒビノの技術力を世界に発信する機会を得た。そして翌年の第39回東京モーターショー2005では、初となるホンダブースの受注に成功している。

第39回東京モーターショー2005でホンダブース初受注
第39回東京モーターショー2005でホンダブース初受注

第2節 「愛・地球博」の映像表示を担当

愛・地球博、共同パビリオンのテーマシアター「めざめの方舟」。世界初の「床面プラズマ・マルチ・ディスプレイ・システム」を実現 ©GISPRI
愛・地球博、共同パビリオンのテーマシアター「めざめの方舟」。世界初の「床面プラズマ・マルチ・ディスプレイ・システム」を実現 ©GISPRI

2005(平成17)年3月から9月にかけて開催された日本国際博覧会(略称:愛知万博、愛・地球博)は、大型映像のさまざまなノウハウを積極的に展開できる大きなビジネスチャンスとなった。ヒビノビジュアル Div.は、1995年に開設した名古屋営業所を拠点とする地道な営業活動を通じて、愛知県館(長久手及び瀬戸)や企業パビリオンなど複数の案件獲得に成功した。

長久手愛知県館では、ライブパフォーマンス「地球タイヘン大講演会」の映像表示を担当し、高度なオペレーション技術を発揮して約3,000回の公演を支えた。また瀬戸愛知県館では、「海上の森」の四季やさまざまな生物の姿を、当時最先端のムービングプロジェクターを駆使した迫力あるHD特殊映像と世界初の7+1サラウンドシステムで体感するシアターを構築、運用した。

企業パビリオンでは、株式会社中日新聞社など愛知県の企業を中心とした共同パビリオン「夢みる山」、「ガスパビリオン 炎のマジックシアター」及び「三井・東芝館」の映像サービスを受注した。

共同パビリオン「夢みる山」では、床面にプラズマディスプレイを埋め込んだマルチ映像表示を展開。また「三井・東芝館」では、フューチャーキャスト®と呼ばれるシステムを用いて来場者の顔画像をスキャンし、来場者自身が映画の出演者となって登場するという映像シアターのサポートを担当した。

また、会場内でワーキングロボットが掃除や警備、接客などを行うという、財団法人2005年日本国際博覧会協会の「ロボット・プロジェクト」では、ロボット本体とステーションを無線で結ぶ映像システム(カメラとモニター)のサポートを行った。

さらに会期中185日間、日替わりで開催されるイベント「あいち・おまつり広場」における大型映像のオペレートも行った。

約半年に及んだ愛・地球博案件は、同年の東京モーターショーとともに、過去最高益(当時)を記録した同年度の実績に大きく貢献し、ジャスダック上場に勢いをつけることになった。

第3節 組織の選択と集中──ジャスダック上場を果たす

ジャスダック新規上場セレモニー。役員集合(東京証券会館)
ジャスダック新規上場セレモニー。役員集合(東京証券会館)

会長となった日比野宏明の創業当初からの目標は、売上高1,000億円の実現と、株式上場にあった。

AVCC(オーディオ・ビジュアル・コンピューター&コミュニケーション)の事業方針のもと、音響から映像、ITへと事業を多角化することで経営規模を拡大し、同時に懸案となってきた先行投資への資金調達をスムーズに行う意味でも、上場は必要な手段であった。

最初の上場機会は、映像サービス事業が大きく成長した1990(平成2)年に訪れた。しかしバブルの崩壊で上場の目安としていた経常利益2億円を1991年度に達成できず断念した。

二度目の挑戦は1995年から始まったが、アストロビジョンなど大型映像機器への巨額投資が財務を圧迫し、長野冬季オリンピック後の1998年度は業績が伸び悩んだことに加え、株式価格の下落傾向等の外部要因もあり再び断念を余儀なくされていた。

2000年以降、ヒビノは音響機器販売、コンサート音響、イベント映像の3本柱を基幹事業として、クロマテック社への資本参加に始まるLEDディスプレイ・システムの開発・製造を4番目の柱に据え、さらにIT、イベントプロデュース、人材派遣などの新規事業を加えたさらなる多角化を進めた。一方で、上場を目指すためには、投資効率と成長性を見越した経営合理化を図る必要があった。

2004年1月、ウェストレイクスタジオを閉鎖し、ポストプロダクション業務から撤退。さらにIT事業への起爆剤として日比野晃久自らが社長を務めた子会社「ヒビノドットコム株式会社」を、2004年7月に吸収合併して、IT及びイベントプロデュース事業はヒビノが継承することとなった。

2005年4月の組織改編では、これまで細分化されていた事業部を「音響×販売」「映像×販売」「音響×サービス」「映像×サービス」「新規事業」という5つにまとめる以下の変更を行った。
・音響機器販売を行うヒビノAVCセールス Div.は、ヒビノプロオーディオセールス Div.に名称を変更するとともに、港区港南(現在の本社所在地の隣地)に移転。
・常設映像・音響機器のシステム設計・販売・保守を行うヒビノSI Div.を、映像製品の開発・製造・販売を行うヒビノクロマテック Div.に統合。
・ライブレコーディングの専門チームは、ポストプロダクション業務の撤退に伴いヒビノレコーディング Div.という独立した組織で業務を続けていたが、これをヒビノサウンド Div.に統合。
・ヒビノドットコムから引き継いだIT、イベントプロデュース及び人材派遣の新規3事業をヒビノプロデュース Div.に統合(その後、IT事業は2007年1月に撤退)。

こうした上場に向けての組織や業務の整理統合を経て、2004年度の連結業績は売上高133億3,500万円(前期比14.8%増)、経常利益7億6,300万円(前期比132.9%増)と、過去最高の実績(当時)を示した。そして2006(平成18)年2月2日、ヒビノはジャスダック証券取引所(現 東京証券取引所 JASDAQ〈スタンダード〉)に株式上場を果たした。

ジャスダック新規上場セレモニー 日比野宏明会長(左)と日比野晃久社長(東京証券会館)
ジャスダック新規上場セレモニー。日比野宏明会長(左)と日比野晃久社長(東京証券会館)

デジタル化の波によって、ヒビノがカバーする領域はいっそうの拡大が期待されており、今後のヒビノの方向性は、音と映像の事業を基軸とした「プロ用AV&ITのトータル・ソリューション」を提供することであるとした。

第4節 中期経営計画「ビジョン200」

日比野晃久社長が上場後にまず着手したのは、中期経営計画「ビジョン200」の策定だった。

2006(平成18)年11月、2006年度から2008年度までの3ヵ年の中期経営計画「ビジョン200」を発表。最終年度の目標数値を、売上高200億円、経常利益15億円と設定し、「ビジョン200」の骨子として次の4つを掲げた。

1.LED関連業務を中心とした海外展開

2.LEDディスプレイ・システムの新製品投入等ラインアップ強化

3.音響機器の新規輸入ブランドの獲得

4.M&A等

基本的な戦略は「事業規模の拡大」にあった。そのため、販売(映像製品の開発・製造・販売事業及び音響機器販売事業)を伸ばすことを目指して、重点製品をLEDディスプレイ・システムに置いた。

具体的には、LEDディスプレイ・システムに経営資源を特化・集中させ、開発強化、ラインアップ拡充、そして販売・サービス両部門の連携強化に取り組むこととした。

また、LEDディスプレイ・システムの拡販に向けたグローバル展開(世界4極体制の確立)は、「ビジョン200」達成に向けた重要な経営課題だった。ハイエンドな映像品質を売りとし、まずヨーロッパ市場に向けて販売・サービス体制を強化し、さらに今後の成長が見込まれるアジア市場にも広げていくこととした。

また音響機器販売事業については、取扱い輸入ブランドの戦略の見直しと、強力な新規ブランドの確保が課題であった。

第5節 世界初4K対応LEDプロセッサー「DLC-612」開発とLEDディスプレイ・システム「ChromaLED 6B」発売

4K対応LEDプロセッサー DLC-612(左)、ChromaLED 6B(右)
4K対応LEDプロセッサー DLC-612(左)、ChromaLED 6B(右)

ヒビノクロマテック Div.は、「DLC-118HD」をさらに高性能化した「DLC-612」を製品化した。DLC-612は、15ビット・4K対応、つまりフルハイビジョンの4倍の画像処理を可能にする世界初の4K対応LEDプロセッサーであった。

常に時代の先取りが求められるコンサート映像やイベント映像の世界では、すでにフルハイビジョンを超えるスクリーンサイズに対応するプロセッサーのニーズがあり、現場を熟知するヒビノが4K対応のプロセッサーを世に出すのは必然といえた。

ラジオシティ・ミュージックホールにDLC-612を初納入
ラジオシティ・ミュージックホールにDLC-612を初納入

DLC-612は、2006(平成18)年9月、屋内では世界最大級のLED画面とともにアメリカのラジオシティ・ミュージックホールに初めて納入された。大都市ニューヨークを象徴するホールへの採用によって、同プロセッサーの性能が世界にアナウンスされることとなった。

さらに、DLC-612の性能を最大限に生かすLEDディスプレイとして独自開発したのが、ヒビノの“黒”、「ChromaLED(クロマレッド)6B」であった。

通常のLEDは、明るさを確保するために白色(ホワイトレンズ)が基本だったが、特にモーターショーで求められる映像クオリティに対応し、他社との差別化を図るためには、微妙な色の再現やコントラストを際立たせる「黒」、ブラックレンズ及びブラックマスク搭載のLEDパネルの開発が検討された。

LED素子メーカーの日亜化学工業株式会社は当初、あえて輝度を下げるような製品を作ることに難色を示したが、現場の強いニーズを理解し、新たな高輝度ブラックタイプLEDの開発という技術をもって応えてくれたのであった。

2006年6月、新開発の6mmピッチ・ブラックフェイスLEDディスプレイと、次世代型高性能プロセッサー「DLC-612」との組み合わせによる「ChromaLED 6B」を発売した。同時に、ヒビノオリジナルのフラッグシップLEDディスプレイ・システムのブランドを「ChromaLED」と統一し、さらなるブランドの浸透を図ることとなった。

黒色が強調されることにより、くっきりとした高精彩映像を再現する「ChromaLED 6B」は、何よりも画質が重要視されるモーターショーでその実力を発揮した。また、世界的なファッションブランド「PRADA」に認められ、2007年11月に銀座店をはじめとする世界50店舗のディスプレイに採用された。その後、日産グローバル本社ギャラリーや渋谷ヒカリエなど、高いレベルの映像表示が求められる案件において、ヒビノのChromaLEDは有力なブランドとして浸透していく。

渋谷ヒカリエに納入したChromaLED 6B。最大直径約17.7mの円形大型LEDディスプレイ・システムを3台設置(2012年)
渋谷ヒカリエに納入したChromaLED 6B。最大直径約17.7mの円形大型LEDディスプレイ・システムを3台設置(2012年)

第6節 株式会社メディア・テクニカルを子会社化

2006(平成18)年9月、ヒビノは「株式会社メディア・テクニカル」の株式を取得して、完全子会社とした。メディア・テクニカル社は医療分野の学会を中心としたイベント・コンベンションにおける映像及び音響機器のレンタルやオペレート、著名イベント・コンベンション施設における運用管理業務を手掛けており、業界における信頼も厚く、知名度も高かった。ヒビノは同社の子会社化によりコンベンション市場における売上拡大を図っていった。

2009年3月に人材派遣事業を、2010年7月にはイベントプロデュース事業と医療分野における業務用映像機器の販売代理店業務の一部を同社に譲渡・移管し、商号を「ヒビノメディアテクニカル株式会社」に変更している。

第7節 「STEALTH」導入開始──コンサート映像市場の拡大

「スキマスイッチ ARENA TOUR'07"W-ARENA"」で運用したSTEALTH
「スキマスイッチ ARENA TOUR'07"W-ARENA"」で運用したSTEALTH

ヒビノのコンサート映像サービスにとって、事業拡大の可能性を秘めた画期的なLEDディスプレイが登場した。アメリカ・ELEMENT LABS社の開発による「STEALTH」であった。2006(平成18)年5月から9月にかけて行われたマドンナのワールドツアー「The Confessions Tour」で初めて本格運用されたといわれるSTEALTHは、ステージ上での使用を前提に設計されたもので、劇的な軽量化とシースルー構造を特長としていた。

天井から吊ることができる重量は会場ごとに制限があり、大画面を構築するには、少しでもLEDユニットを軽くする必要があった。STEALTHの基本ユニットは、40cm角の格子状(メッシュ状)のパネルにLED素子を25mm間隔に実装することで、平米当たりの重量を従来の10分の1程度まで軽量化していた。この軽量構造によってステージ上に大画面を組んで天井から吊り下げるという運用が可能になったうえ、横長や縦長、360度のスクリーンといったデザインも容易に構築できるため、ステージ演出のツールとして優位性が高かった。またメッシュ状であるがゆえの透過(シースルー)効果によって、ステージングの幅を格段に広げるというもう一つのメリットを有していた。

ヒビノビジュアル Div.は、コンサート映像における顧客提案力の向上を図るため、STEALTHの導入を決め、ヒビノクロマテック Div.は、2007年1月にELEMENT LABS社と輸入総代理店契約を結んだ。

ヒビノビジュアル Div.におけるSTEALTHのデビューは、同年5月のMr.ChildrenとEXILEのツアーだった。さらに、同年12月31日の「第58回NHK紅白歌合戦」では、ChromaLED 6BとSTEALTHを組み合わせた3層構造のLED画面がステージで上下昇降、左右開閉するという立体的かつ斬新な映像演出が話題を呼んだ。

第40回東京モーターショー2007 ホンダブース。壁面及び天井一面をSTEALTHによる映像で埋め尽くした
第40回東京モーターショー2007 ホンダブース。壁面及び天井一面をSTEALTHによる映像で埋め尽くした
第40回東京モーターショー2007 スバルブース
第40回東京モーターショー2007 スバルブース
第40回東京モーターショー2007 三菱ブース
第40回東京モーターショー2007 三菱ブース
第40回東京モーターショー2007 日産ブース
第40回東京モーターショー2007 日産ブース

第40回東京モーターショー2007のホンダ、トヨタ、スバル、三菱の各ブースでは、ChromaLEDとSTEALTHを組み合わせて使用。中でもホンダブースでは、STEALTHの軽量さを生かして天井一面を映像で埋め尽くすという演出を実現。まさにLEDディスプレイ・システムの新時代を象徴するブースとなった。

第8節 ヨーロッパ、アジアの拠点づくり──次なる海外展開へ

高品質・高精彩のChromaLEDシリーズを主軸に、多彩なラインアップを加えたヒビノのLEDディスプレイ・システムは、高級車メーカーや一流のファッションブランドが集積し、高画質映像に対するニーズの高いヨーロッパ市場で評価を得ることに成功した。ヒビノは次なる海外展開を見据え、2008(平成20)年の北京夏季オリンピック、2010年の上海国際博覧会(上海万博)など世界的イベントの開催を控える中国、さらに経済成長を続けるアジアにおけるビジネスチャンスをうかがった。

2007年4月、ヨーロッパ市場の拠点として現地法人「Hibino Europe Limited(ヒビノ ヨーロッパ リミテッド)」を、イギリス・ロンドン郊外に開設。さらに同年8月には、アジア市場、特に中国向けの拠点として「Hibino Asia Pacific Limited(ヒビノ アジア パシフィック リミテッド)」を香港に開設した。

両法人とも、LEDディスプレイ・システムの販売と保守をメインとしたビジネスを展開することとした。さらにHibino Asia Pacific Limitedは、一部製品の製造企画・管理も担う戦略をとり、2008年11月、全天候対応シースルータイプのLEDディスプレイ・システム「Chromawall 12」を開発した。

秋葉原UDXビジョンに採用されたChromawall 12(2012年)
秋葉原UDXビジョンに採用されたChromawall 12(2012年)

また2010年4月には、「Hibino Asia Pacific (Shanghai) Limited(ヒビノ アジア パシフィック(シャンハイ)リミテッド)」を設立。ヒビノビジュアル Div.が受注した上海万博「日本館」パビリオンの映像サポート案件の拠点とした。

かつてのアメリカ、韓国への進出と撤退をバネに、新たな海外への販路拡大を期した拠点の設置は、自社開発製品の販売や運用ノウハウを輸出することを通じて、ヒビノのブランドをよりワールドワイドなものにしていこうという決意表明でもあった。ただし、リーマン・ショック後の市場低迷により、Hibino Europe Limitedは事業縮小を余儀なくされている。一方、中国の2法人は2011年11月に完全子会社化し、2012年4月から上海で大型映像サービスを開始した。経済成長を続ける中国では、特に活況を呈するモーターショー(上海、北京、広州、成都など)のニーズに対応する戦略を強化している。

第9節 音響機器販売事業のブランド戦略

日本テレビ放送網株式会社の生田スタジオに納入した CALREC「ALPHA with Bluefin」(2008年)
日本テレビ放送網株式会社の生田スタジオに納入した CALREC「ALPHA with Bluefin」(2008年)

ヒビノプロオーディオセールス Div.は、デジタル化が著しい音響分野において、顧客の多様なニーズに合致するブランドを開拓し、的確なサポート体制を構築することがミッションとなっていた。

1990年代中盤から取扱いブランドを収益性の高い輸入商品にシフトする方針へと舵を切り、創業期からディーラーとして手掛けてきたJBL PROFESSIONAL、Shureの総代理店契約の締結や、新たな輸入ブランドの獲得に努めてきた。

より戦略的なブランドマネジメントを行うための手段として、2007(平成19)年12月、海外の音響機器を数多く取り扱う「株式会社ヘビームーン」を完全子会社化した。さらに2009年1月には、ヘビームーン社の商号を「ヒビノインターサウンド株式会社」と変更するとともに、ヒビノプロオーディオセールス Div.が扱う輸入商品の一部移管を行い、スピーカー、マイクロホン、ミキシングコンソール(PA向け、放送局向け)という各商品カテゴリーに対し、2ブランドあるいは3ブランドを確保して、販売体制の強化と効率化を図った。

具体的には、ヒビノプロオーディオセールス Div.はHarman社傘下のJBL PROFESSIONAL、AKG、AMCRON、Soundcraftなどの商品を扱うこととし、その他のブランドはヒビノインターサウンド社が担当するという明確な棲み分けを行ったのである。世界的企業であるHarman社との結びつきを強めながらも、ヒビノインターサウンド社では新興ブランドや新たな取扱いブランドの開拓を進めていくという両輪体制が構築された。

スチューダー・ジャパン−ブロードキャスト社が株式会社WOWOWの音声中継車にSTUDER「VISTA 5」を納入
スチューダー・ジャパン−ブロードキャスト社が株式会社WOWOWの音声中継車にSTUDER「VISTA 5」を納入

2008年5月には、放送用ミキシングコンソールとして世界的な実績を誇るSTUDER製品を扱う「スチューダー・ジャパン−ブロードキャスト株式会社」を完全子会社化した。同社は、2010年4月には放送局向け映像システム分野にも進出して、音響・映像の両面からサポートできる体制を整備した。

株式会社タックに納入したCODA AUDIOスピーカーシステム。「KAJa!2012」野外ステージ
株式会社タックに納入したCODA AUDIOスピーカーシステム。「KAJa!2012」野外ステージ

また、2010年12月には、ヒビノインターサウンド社がドイツのスピーカーシステム「CODA AUDIO」の輸入総代理店契約を結んだ。ヒビノサウンド Div.もモニタースピーカーを導入。CODA AUDIOは有力なPA及びSRスピーカーブランドとして、ヒビノインターサウンド社の主力商品となった。

第10節 中期経営計画「Action 50」──リーマン・ショックを越えて

国内最大級の街頭ビジョンQFRONT「Q’S EYE」。453m²のヒビノ製LEDディスプレイ・システムを納入
国内最大級の街頭ビジョンQFRONT「Q’S EYE」。453m²のヒビノ製LEDディスプレイ・システムを納入

ヒビノグループが進めてきた中期経営計画「ビジョン200」は2008(平成20)年度が最終年度であった。2008年4月には「ものづくり」を担う拠点として神奈川県横浜市港北区新吉田東に事業所を開設し、LEDディスプレイ・システムの新製品展開などに取り組んできたものの、2008年9月に起きたアメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻が引き金となった世界同時金融危機、いわゆるリーマン・ショックによる経済の冷え込みが、ヒビノの業績を直撃した。

2009年5月、ヒビノグループは第1フェーズである「ビジョン200」からの継続課題を解決すべく、“復活〜飛躍”の第2フェーズとして次なる成長に向けた新中期経営計画「Action 50」(ヒビノ設立50周年に向けた2009年度〜2013年度の5ヵ年計画)を策定し、発表した。特に「ものづくり」を最重点テーマとして、グローバル戦略の建て直し、M&Aによる既存事業の拡大と新規事業の推進に取り組むこととした。

Action 50の骨子は、次の通りである。

1.音と映像の既存事業の強化とともに「ものづくり事業の強化」

2.世界4極体制への拠点づくり「グローバル展開の強化」

3.シェアアップを図るべく「M&A等の検討」

4.高付加価値事業への参入に向け「新規事業の開発」

計画当初は売上高300億円、経常利益18億円と設定したものの、景気後退による企業業績の悪化により、設備投資の先送りや企業イベントの手控え、予算の大幅な削減・凍結が顕著になるにつれ、ヒビノグループは2008年度から2011年度まで4期連続の赤字決算となり、「Action 50」も6ヵ年計画(2009年度〜2014年度)で売上高200億円、経常利益12億円の目標値に、修正を余儀なくされた。

LEDディスプレイ・システム市場は、ヨーロッパ市場の急速な落ち込みとともに、中国が安価なLEDパネルの生産を加速化させたことで、市場価格が大幅に落ち込み、国内の大手家電メーカーも相次いでLEDディスプレイ事業から撤退することとなった。

ヒビノクロマテック Div.はLEDディスプレイの販売が鈍化したことで在庫を大量に抱えることになったが、計画的な在庫整理とともに組織のスリム化、約40項目にのぼる大胆な経費節減など経営効率の改善による収益基盤の強化に果断に取り組むことで、事態を乗り切った。

ヒビノクロマテック Div.は市況の回復を待って、あらためて品質の高い国産製品を提供するメーカーとしてのスタンスを打ち出し、2013年には、渋谷駅ハチ公口交差点前「QFRONT」ビルの国内最大級の街頭ビジョン「Q’S EYE」の受注に成功。2014年に入って新規案件の引き合いも増加している。

第11節 コンシューマー分野のさらなる開拓

iBasso Audio社とヒビノインターサウンド社が共同開発したリファレンス・ミュージックプレイヤー「HDP-R10」
iBasso Audio社とヒビノインターサウンド社が共同開発したリファレンス・ミュージックプレイヤー「HDP-R10」

ヒビノのコンシューマー向けビジネスは、Shureのプロ用高級イヤホンをコンシューマー市場に投入し成功を収めた2003(平成15)年に始まる。ヒビノが持つプロオーディオのイメージと、プロが使うイヤホンのイメージをミックスした商品提案が功を奏し、デジタルポータブルプレイヤー「iPod」の市場拡大も後押しして、ハイエンドイヤホン市場の基礎を作った。

そして2010年、子会社ヒビノインターサウンド社は、高性能のイヤホンをさらに高音質で聴くためのポータブルヘッドホンアンプをコンシューマー市場に提案すべく、世界中のメーカーから選び抜いた結果、iBasso Audioのポータブルヘッドホンアンプを家電量販店で展開した。当初は極めてニッチだったポータブルヘッドホンアンプを、オーディオマニアではない一般ユーザーにまで裾野を広げることに成功し、iBasso Audio製品はトップクラスのブランドバリューとシェアを獲得した。

デジタルオーディオの普及は、CD音質を超える「ハイレゾ」音源で音楽を楽しむという新たな環境を創出した。2012年8月には、ハイレゾ音源をどこでも好きな場所に持ち出して楽しめるポータブルミュージックプレイヤー「HDP-R10」を発表。「最高の音」を追求したHDP-R10は、既存のポータブルミュージックプレイヤーとは一線を画す新たな需要領域を切り拓くものとして、ヒビノインターサウンド社とiBasso Audio社の共同開発により生まれた。ポータブルプレイヤーとしては高価格ながら初期ロットが完売するなど好調なセールスを示し、新たなコンシューマーマーケットの創出に向けて、今も挑戦を続けている。

第12節 東日本大震災と復興支援への取り組み

避難所となった南三陸町立歌津中学校に設置したメディアランナー。電力供給をサポート
避難所となった南三陸町立歌津中学校に設置したメディアランナー。電力供給をサポート

2011(平成23)年3月11日、午後2時46分。宮城県仙台市東方沖70kmの太平洋海底を震源とする大きな揺れが、東日本の広域を襲った。マグニチュード9.0という国内観測史上最大の地震は、巨大津波による甚大な被害に加えて、原発事故という未曾有の複合災害をもたらした。

東京周辺でも震度5強という強い揺れが起こり、ヒビノ本社や各事業所では商品や機材が落下・破損した。ヒビノサウンド Div.の新木場事業所周辺は、地震発生後広範囲にわたる液状化現象が起こり、同事業所も地盤沈下による被害が発生した。

電話回線の不通やネット回線の混雑により、従業員の安否確認は困難を極めた。そこで比較的電話回線のつながりやすかった大阪事業所に各事業所の安否情報を集約し、当日の午後10時までに全従業員の無事を確認した。

震災当日は全国各地でコンサートやイベントが開催されていたが、ヒビノのスタッフが従事していた会場では、日頃からの安全への取り組みの結果、大きな事故は起こらなかった。

3月に開催が予定されていたコンサートやイベントの約75%が延期あるいは中止になるなど、事業への影響は当初大きいと思われたが、4月に入ると過度の自粛ムードは次第に回避されていった。チャリティコンサートをはじめ、音楽による復興支援活動を企画するアーティストや団体も数多く現れ、あらためて音楽の持つ力、影響力の大きさを再確認する契機ともなった。

震災発生から2日後の3月13日、ヒビノビジュアル Div.の佐々木晃営業部長の発案により、電力供給が困難な地域にメディアランナーを電源車として派遣することを決定。宮城県及び岩手県の自治体への申し出を経て、北海道オフィスからメディアランナー2台とスタッフ2名が、甚大な被害を受けた宮城県本吉郡南三陸町に向かった。

ベイサイドアリーナ(南三陸町災害対策本部)前に設置したメディアランナー。情報提供活動を行った
ベイサイドアリーナ(南三陸町災害対策本部)前に設置したメディアランナー。情報提供活動を行った

危機的な状況の中、メディアランナー2台のうち1台は避難所となっていた歌津中学校での暖房や照明などライフラインへの電力供給をサポートした。もう1台は、町の災害対策本部が置かれたベイサイドアリーナにて、NHKのBS放送をモニター放映する情報提供活動を行った。同月26日には応援スタッフが加わり、支援メンバーは合計9名となった。そして4月15日、東北電力による電源が復旧し、メディアランナーの被災地支援活動はその役割を終えた。

未曾有の震災を契機として、ヒビノはさらなる安全対策と防災意識の徹底を図るとともに、ヒビノグループの持つ「音と映像」の総合力を通じて、グループを挙げて復興支援に取り組んでいくことを誓った。

2013年6月には、東北地区における業務用音響機器のサポート拠点として、ヒビノプロオーディオセールス Div. 仙台プロモーションオフィスを開設。東北6県の復興に取り組まれている音響・放送関係者へのサポート体制を強化した。

第13節 コンサートビジネスの興隆

JBL PROFESSIONALのラージラインアレイスピーカーシステム「VTXシリーズ」
JBL PROFESSIONALのラージラインアレイスピーカーシステム「VTXシリーズ」

音楽業界を支えてきたCD(コンパクトディスク)市場は、趣味嗜好の多様化やデジタル音源の普及などにより停滞を余儀なくされる一方で、アーティストの活動の中心が「ライブ」に移行したことにより、コンサート市場は活況を呈するようになった。

コンサートの公演回数及び動員数は毎年右肩上がりで推移しており、2013(平成25)年は2万1,978回(3,886万人)を記録し、10年前の2003年と比べて1.7倍の公演回数、2.2倍の動員数となった。市場規模も2003年の942億円から13年は2,318億円まで拡大した(一般社団法人コンサートプロモーターズ協会調べ)。

ヒビノが音響または映像のサポートを行うコンサートの年間公演回数(2013年度実績)は5,000本を優に超えている。

コミュニケーションが希薄といわれる社会背景において、アーティストと観客を結びつける「場」としても、ライブの魅力があらためて見直されているという。また、経済力のあるシニア世代(ロック第一世代)が、再びライブに足を運ぶようになっていることも、見逃せない流れの一つといえよう。

ヒビノにとって“追い風”ともなるこうした動きを捉え、ヒビノサウンド Div.は最新機材の導入を加速させ、攻めの姿勢で臨んでいる。

L-ACOUSTICSのラインアレイスピーカーシステムV-DOSC(左)、K1(右)
L-ACOUSTICSのラインアレイスピーカーシステムV-DOSC(左)、K1(右)

2006年3月には、L-ACOUSTICS社(フランス)のラインアレイスピーカーシステム「V-DOSC」の日本での運用に関するパートナー契約を締結し、同年4月より運用を開始した。また2010年3月にはV-DOSCの後継機種で、大規模会場向けのラージラインアレイスピーカーシステム「K1」の導入を決定。2012年6月にはJBL PROFESSIONAL「VTXシリーズ」、13年7月にはMartin Audio「MLA」、14年5月にはL-ACOUSTICS「K2」を導入するなど、常に時代の最先端を行く機材によってアーティストのニーズに応え、迫力に満ちたステージングのバックアップに努めている。

第14節 コンサート映像サービスの進化

「ViVi Night 2010」で運用したVB-9
「ViVi Night 2010」で運用したVB-9

コンサートにおける映像演出の可能性は、2007(平成19)年のSTEALTHの導入をきっかけとして飛躍的に広がった。

この機を逃さず、ヒビノクロマテック Div.は、ChromaLEDをコンサート用途に改良した「VB-9」を開発し、2010年7月にヒビノビジュアル Div.専用の機材として稼働を開始した。

VB-9の開発コンセプトは、ChromaLEDの映像品質を落とさずに軽量化を図ることであった。特にこだわったのは「コンサートの暗転時にスクリーンの存在が完全に消える“黒”」だった。

コンサートでLEDディスプレイを運用する際、暗転状態であっても、従来のパネルではわずかな光を反射してしまうため、客席からうっすらとディスプレイが見えてしまう。このことが、演出側の悩みの種であった。

完全な暗転状態から突如映像が浮かび上がり、観客をアッと驚かせる演出を可能にするためには、「画面の存在を消すこと」が求められた。そんな現場のニーズに応えたのが、VB-9だった。

VB-9は、9.5mmピッチのブラックタイプLEDを採用、単体パネルは30.5cm角で、重さはわずか1.7kg。軽量構造かつセッティング時間を大幅に短縮できる設計、屋外での使用も可能という、まさに現場の声をフィードバックしたものだった。

その後も、今までにないスケールの大画面を構築できる軽量で設置性に優れたシースルータイプの「Fシリーズ」(2011年〜)を大量に導入するなど、コンサートに適したLEDディスプレイ・システムを次々とラインアップし、映像を使ったコンサートのよりいっそうのエンターテインメント化に寄与している。

大規模な映像演出によって他のアーティストとは常に一線を画すEXILEのコンサートにおいて、2011年のドームツアーでは高さ45mのLEDのタワー「願いの塔」を、そして2013年のドームツアーでは横52m×縦14.4mの大画面をはじめ、トータル1,400平米のLED画面が配されたステージを実現。美しさと迫力で観客を魅了した。

また2014年3月のL’Arc-en-Cielの国立競技場公演では、客席全面をキャンバスに見立てたプロジェクションマッピングの映像演出が話題となるなど、数々の革新的なコンサート映像案件を成功に導いている。

第15節 照明機器販売事業への参入とM&Aの積極推進

ファーストエンジニアリング社が2013年9月より輸入総代理店業務を開始した照明機器ブランドAyrton ©2013 Todd Kaplan
ファーストエンジニアリング社が2013年9月より輸入総代理店業務を開始した照明機器ブランドAyrton
©2013 Todd Kaplan

ヒビノグループは、中期経営計画「Action 50」の中で、M&Aを活用した業界シェアの向上と周辺事業への進出に取り組んでいる。社長の日比野晃久は、今後のヒビノグループの方向性として、「音響」「映像」「音楽」「ライブ」という4つのキーワードのもとでビジネスを展開していく考えを示し、あらゆる経営資源をこの4つの要素に集中していくこととした。

コンサートのショーアップ、エンターテインメント化が進む中で、音響と映像の分野のみならず、照明のニーズにも応えられる体制を整えるために、2013(平成25)年7月、「株式会社ファーストエンジニアリング」を完全子会社化した。同社は、舞台照明機器の販売やシステム設計・施工を手掛け、全国のホール、ライブハウスなどに豊富な実績があり、主力商品であるAvolites社(イギリス)のライティングコンソールは、国内の舞台照明市場において圧倒的な知名度と人気を誇っている。ヒビノとして初となる舞台照明分野への参入は、将来的な「音響」「映像」「音楽」「ライブ」のトータル・ソリューション企業への第一歩として、位置づけられた。

ファーストエンジニアリング社がEXシアター六本木に納入したAvolitesのライティングコンソール
ファーストエンジニアリング社がEXシアター六本木に納入したAvolitesのライティングコンソール

M&A戦略としてはほかに、2010年10月に全国の劇場やホールの音響及び映像システムの設計・施工を手掛ける「ビクターアークス株式会社」(現 株式会社JVCケンウッド・アークス)を持分法適用関連会社化し、ヒビノはホール音響分野へ本格参入を果たした。

2013年1月には放送機器を中心とした業務用映像音声機器のレンタル業を営む「株式会社べスコ」(現 ヒビノベスコ株式会社)を完全孫会社化。同年6月には「株式会社エィティスリー」を完全子会社化した。エィティスリーが運営する老舗ライブハウス「ケネディハウス銀座」は、1960〜70年代のロックやポップス、グループサウンズから最近のヒットソングまで、幅広い年齢層にアピールするラインアップを特徴としており、「加瀬邦彦&ザ・ワイルドワンズ」「加山雄三&ハイパーランチャーズ」の定期ライブを開催している。ヒビノのライブハウス事業は、将来的にはソフト分野への本格参入も視野に入れながらの実験的な試みといえる。

ケネディハウス銀座の店内
ケネディハウス銀座の店内
「加瀬邦彦&ザ・ワイルドワンズ」。ケネディハウス銀座で定期ライブを行っている
「加瀬邦彦&ザ・ワイルドワンズ」。ケネディハウス銀座で定期ライブを行っている

2014年3月には、映画館の映像及び音響装置の販売、システム設計・施工などを手掛ける「コバレント販売株式会社」(現 ヒビノイマジニアリング株式会社)を完全子会社化し、ヒビノグループが扱う輸入商品の販売拡大に向け、シネマ市場を強化した。

ヒビノイマジニアリング社がデジタル映写システムを納入した横浜ブルク13シアター1
ヒビノイマジニアリング社がデジタル映写システムを納入した横浜ブルク13シアター1

第16節 設立50周年を迎えて ヒビノはさらに進化する

2014年11月の「国際放送機器展(Inter BEE)」。ヒビノグループが共同出展し、最新鋭の音響・映像・照明機器を展示
2014年11月の「国際放送機器展(Inter BEE)」。ヒビノグループが共同出展し、最新鋭の音響・映像・照明機器を展示

2014(平成26)年11月、ヒビノは設立50周年を迎えた。2013年度は景気上昇による大型案件の増加やコンサート市場の拡大などにより、売上高は前期比16.5%アップの176億7,000万円、営業利益は12億9,000万円(前期比70.8%増)と過去最高を達成、経常利益は11億4,300万円(前期比98.1%増)という好決算となった。中期経営計画「Action 50」の最終年度に当たる2014年度には、電波法改正に伴う特定ラジオマイク(ワイヤレスマイクロホン等)の買い替え需要増や、IR(統合型リゾート)関連、2020年東京オリンピック開催に向けての公共インフラ投資など、ビジネスチャンス拡大への期待が広がっている。

ヒビノは「音と映像のプレゼンテーター」として、音響及び映像のトップランナーとしてのブランドを構築してきたが、デジタル(IT)化の流れがさらに進みつつある今、音響・映像の領域を超えたさまざまな技術やノウハウをシームレスに結びつけて、多様な顧客のニーズに的確に応えていく体制が求められている。

目の前に広がる可能性の大海原を前に、社長の日比野晃久は「進化」と「ハニカム型経営」を舵取りのキーワードに据える。特に、音響と映像、照明、さらにステージ演出やソフトの分野をも視野に入れたトータル・ソリューションを提案できる企業として「進化」を期す。そして、ヒビノグループとして既存の事業とその周辺を埋める事業を堅牢かつしなやかに組み合わせていく「ハニカム型経営」を推進していくことによって、経営基盤の強化を図り、同時に海外進出も積極的に推し進めながら、創業以来の目標であった「1,000億円企業」の実現を目指す。

創業者・日比野宏明の個人商店から出発し、ヒビノ電気音響設立以来50年の歩みは、日本の音楽文化、映像文化、エンターテインメントの発展とともにあった。グループ全体で約700名の従業員を抱えるまでの規模に成長した今、あらためてヒビノの“創業者精神”である情熱と創意工夫、未知の領域にも果敢に挑むスピリットを原動力に、さらなる成長と発展の歴史をつないでいく。