未来のエンターテインメント体験施設「XD HALL」
XD HALLは、円筒型シアターの壁・天井・床の全方向に映し出される高精細映像と、全身を包み込むイマーシブサウンド、床振動、体験者が装着する専用ARデバイスを駆使した、映像・音声が融合する超没入型の体験施設です。前後左右、頭上、足下まで全周囲に展開される「モンスターハンター」シリーズの世界やアイルーとのふれあいや迫り来るモンスターの驚異など、ここでしか体験できない特別な「モンスターハンター」をお届けしました。

2025年に開催された大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンにて、株式会社カプコン(以下、カプコン)が体験型コンテンツ『モンスターハンター ブリッジ』を出展したミライのエンターテインメント体験施設「XD HALL」。360度視界一面に広がるモンスターハンターの映像と、それに連動する立体音響と耳元で聞こえるクリアな音声、そして床振動、すべてが融合した圧倒的な没入体験が提供されました。ヒビノグループは「XD HALL」の音響・映像・床振動システムの設計・施工を担当しました。『モンスターハンター ブリッジ』の没入感を生み出すために重要な要素となった「イマーシブサウンド」と「360度映像」について、どのように実現したのか、ヒビノグループの取り組みを二回に分けて紹介します。
一回目は「イマーシブサウンド」についてです。十分な音質・音量のイマーシブサウンドは高性能スピーカーだけで作れるものではなく、今回で言えば建築設計から空調機等の建物設備、映像や床振動などの演出装置まで多様な要素を、理想の音響空間のために調整する必要がありました。すべての要素をコンテンツホルダーであるカプコンが求める「理想の音」に向けて最適化することで、臨場感あふれる体験の提供を目指しました。
XD HALLは、円筒型シアターの壁・天井・床の全方向に映し出される高精細映像と、全身を包み込むイマーシブサウンド、床振動、体験者が装着する専用ARデバイスを駆使した、映像・音声が融合する超没入型の体験施設です。前後左右、頭上、足下まで全周囲に展開される「モンスターハンター」シリーズの世界やアイルーとのふれあいや迫り来るモンスターの驚異など、ここでしか体験できない特別な「モンスターハンター」をお届けしました。


スピーカー配置イメージ
「XD HALL」の立体音響は、合計93台のスピーカーで構成された89.1chのイマーシブサウンドシステムで実現しています。
カプコンが目指したのは、体験エリアのどこにいても、身長差関係なく均一な音量・音質・定位(音の位置)が体感できる空間でした。
スピーカーは同軸スピーカーのCODA AUDIOフルレンジ・スピーカー「D12」を採用。同軸スピーカーは、すべての周波数の音が一点から放出される「点音源」に近い性質をもち、音の輪郭や聞こえてくる位置がぶれにくく、今回のようなマルチチャンネル環境に適しています。高い出力ときめ細かな音質を兼ね備えた「D12」を活用し、イマーシブサウンド実現へ向けて設計を進めました。93台のスピーカーの位置は、3Dモデリングを行い最適な配置を緻密にシミュレーションしました。設置するスピーカーの数が多い方が音の定位を高めることができますが、コストやチャンネル管理方法等、システム全体の最適解を求めた結果、側面70台、天面19台、床にサブウーファー4台(1chで4台駆動)の89.1chになりました。音の動きや奥行きを繊細に表現し、立体的な音響空間を作り出しました。
「XD HALL」での没入感を高めるために、プロジェクターや空調設備から発せられるファン音や風切り音などのノイズ対策が課題となりました。4Kレーザープロジェクター6台と夏の暑さを凌ぐための空調設備から発生するノイズは、コンテンツの静かなシーンにおいては、没入感を損なうレベルで聞こえてしまうことが予想されました。カプコンからも「静かなシーンまでこだわりたい」というリクエストがあったため、ヒビノグループで工場などの騒音対策事業を展開する日本環境アメニティがノイズに対する消音・防音を実施しました。目標とする静粛性レベルをNC25(映画館レベル)に設定。当然プロジェクターのファンや空調の性能を落とさずに騒音レベルを下げる必要があります。そのため、同社の研究所に、本番同様の設備を組み上げ、解決方法を検討しました。最終的には目標値をクリアし、映画館に限りなく近い静寂性を実現し、コンテンツに没入できる環境を整えました。

床面の映像を投影するプロジェクター6台は天面に設置
スピーカー設置後の音響調整では、「コンサート会場で響いているような迫力のある音」を目指すのではなく、完成した音源を整えて仕上げる「マスタリング」に近い考え方で進めました。「XD HALL」は壁内に吸音材(グラスウール)を取り付けており、音が響きにくい環境です。そのため、パワフルな音ではなく、映画館やレコーディングスタジオで求められるような、クリアでまとまりのある音を目指しました。
まず当社側で体験エリアの複数地点で音が均一に聞こえるよう、個々のスピーカーの性能を確認しながら、全体のイマーシブスピーカー89.1chシステムを調整。続いて、カプコンのサウンドチームと当社のエンジニアが連携し、コンテンツの音量・質感・バランスを空間全体に合わせて調整し、クオリティを最高レベルに追い込んでいきました。

体験者が装着する専用ARデバイスのイヤホンは、カプコンとKDDI株式会社から設計協力の依頼をうけて、当社で全面的に監修を行いました。ARデバイスの開発・製造はKDDIが進めていましたが、イヤホンに関しては、音の専門家として当社にお声がけいただきました。「89台のスピーカーから聴こえるイマーシブサウンド」と「ARデバイスの音声」の融合を成り立たせることに加え、運用上の諸問題もクリアする必要がある、難易度の高い開発案件でした。
イヤホン開発のポイントとなったのは、ドライバー選定です。89台のスピーカーから生まれるイマーシブサウンドの音質を妨げないよう、イヤホンは外耳道(耳の穴)を塞がない設計にする必要がありました。しかし、この構造では、イヤホンから耳に届く音量は小さくなり、特に低域が減衰します。そこで、十分な音量が得られることを最優先に、できるだけ低域まで再生可能なドライバーを選定しました。さらに、コンテンツ側でもドライバーの再生特性に合わせて、周波数特性と音量を調整しました。大音量での再生や低域補正はドライバーへの負荷が大きくなるため、耐久性もドライバー選定時に重視しました。
またイヤホンの形状にも徹底的にこだわりました。『モンスターハンター ブリッジ』を体験されるのは、小学生からご年配の方、さらには海外の方まで、多岐にわたることが想定されました。当然ながら顔の大きさや耳の位置は一人ひとり異なります。そのため、多数のサンプルを採取し、多くの人にとって使いやすい「最適解」となるような、形状・寸法を各社連携のもと導き出しました。プロジェクトメンバー全員で膨大な時間をかけて納得のいく専用ARデバイスを完成させました。
関係各社のクオリティに対するこだわりと技術力が集結して実現した、XD HALL『モンスターハンターブリッジ』。万博会期中を通して一度もシステムトラブルを起こすことなく、全日程の上映を完遂し、大勢の方に驚きと感動を届けることができました。XD HALLのサウンドディレクションを担当されたカプコンの岸 智也様(サウンドプロダクション室)は今回のプロジェクトについて次のように振り返ります。
「国際博覧会という特性上、「50年後にも残る音をつくるべきだ」と考え、没入感を超えた“体感”――音に包まれて、その空間に自分がいると感じられる状態を目指しました。そのために、制作初期から弊社のサウンドチームとヒビノのテクニカルチームが密に組んで進めました。今後のエンタメ体験においては、音そのもののデザインだけでなく、テクニカルと高次元で融合させることがますます重要になると思っています。制作初期に実現したいと考えていたことは、おかげさまで最終的にすべて形にすることができましたが、それはヒビノとの協業がなければ実現しなかったものであり、感謝しております」
この圧倒的な世界観をさらに多くの方々へお届けしたいという思いから、体験型コンテンツ『モンスターハンター ブリッジ』は、2027年度を目途に兵庫県立淡路島公園「ニジゲンノモリ」への移設が決定しており、演出機器の施工は引き続き当社で担当させていただく予定です。
https://www.capcom.co.jp/ir/news/html/260409.html
今回のプロジェクトは、カプコンの理想を、グループ全体の連携と技術力によって形にし、世界的な人気を誇る「モンスターハンター」の魅力を最大化しました。これからも、音と映像の可能性を広げるべく、ヒビノグループならではの挑戦を続け、音と映像を通して世界に新たな感動を届けてまいります。
納入概要
| 顧客 | 株式会社カプコン |
| 納入施設 |
大阪・関西万博「大阪ヘルスケアパビリオン」XD HALL |
| 展示(上映内容) | 『モンスターハンター ブリッジ』 |
| 公式サイト | https://www.capcom-games.com/mh-bridge/ja-jp/ |
| 運用期間 | 2025年4月13日(日)~2025年10月13日(月) |