大阪・関西万博 大阪ヘルスケアパビリオン「XD HALL」を支えた、ヒビノの「音響透過型・高精細LEDディスプレイ」開発秘話

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2025年に開催された大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンで大きな注目を集めた「XD HALL」。ここでは株式会社カプコン(以下、カプコン)が体験型コンテンツ『モンスターハンター ブリッジ』を出展しました。360度視界一面に広がるモンスターハンターの映像と、それに連動する立体音響と耳元で聞こえるクリアな音声、そして床振動が融合した圧倒的な没入体験が提供されました。ヒビノグループは音響・映像・床振動システムの設計・施工を担当しました。

XD HALLの特徴ともいえる「イマーシブサウンド」と「360度映像」について、どのように実現したのか。この記事では、「360度映像」の実現を支えたLEDディスプレイ「ChromaVision025」について紹介します。「ChromaVision025」は、XD HALLのためにヒビノグループが1年以上かけて独自開発した音響透過型・高精細LEDディスプレイです。高精細な映像とクリアなイマーシブサウンドの両立、開発と施工の裏側に迫ります。

  • 丹野 裕太

    ヒビノ株式会社ヒビノクロマテック Div. 営業担当

  • 小川 栄次

    ヒビノ株式会社ヒビノクロマテック Div. 施工担当

  • 江川 壮祐

    日本環境アメニティ株式会社 施工担当

高精細と音響透過の両立にこだわった理由

XD HALL内部イメージ 提供:(公社)大阪パビリオン

「XD HALL」の体験エリアは、全方位から映像で包み込まれる空間設計となっています。円柱状で高さ4.8メートル、内周37.76メートルの完全リング状の側面と、直径12.7メートルの天面をLEDディスプレイで構成し、床面はプロジェクターによって映像を投影しています。

大部分を構成するLEDディスプレイの最大の特徴は、「高精細かつコントラストの高い映像表現」と「背面に設置したスピーカーの音をできる限り音質を損なわず通すこと」の両立です。

映像と音が連動し、まるで「モンスターハンター」の世界へ入り込んだかのような没入感を生み出すには、スピーカーをLEDディスプレイの裏側に隠しつつ、クリアで迫力のある音を体験エリアへ届ける必要がありました。しかし、一般的なLEDディスプレイは、裏側にスピーカーを設置したとしても音は透過せず、演出は成り立ちません。一方で、音を通しやすい従来の透過型LEDディスプレイ(コンサートなどで使用されることが多い)はLED素子同士が離れているドットピッチの粗いものしかなく、今度は映像の解像度が粗くなります。「映像美」と「音のクオリティ」の両立が大きな課題となりました。

「XD HALL」検討の初期段階では、壁面・天面もプロジェクターによる投影にする案も浮上しました。しかし、カプコンから、「大阪・関西万博でお客様にモンスターハンターの世界に入り込む体験を提供したい。没入感を第一に映像機材なども相談したい」とのリクエストがあり、自発光で鮮やかな色彩と高いコントラスト比を誇るLEDディスプレイの採用を決定。「高精細かつ音響透過型」のLEDディスプレイ開発へと踏み切りました。

いくつもの制約を乗り越えた音響透過型LEDディスプレイ開発

開発を担当したヒビノ株式会社 ヒビノクロマテック Div.の丹野は当時を振り返りこう話します。

丹野「ヒビノグループは「映像」と「音」を提供する会社です。高精細な音響透過型のLEDディスプレイの開発は個人的にも長年挑戦したいと思っていた取り組みでしたが、スケジュールやコスト的な面からなかなか実現できずにいました。今回カプコンさんから360度映像をLEDディスプレイで実現したいとのご要望をいただき、ヒビノグループの持っている技術を結集して開発に挑みました」

ヒビノ株式会社 ヒビノクロマテック Div.の丹野

丹野「既存の透過型LEDディスプレイはLED素子の間隔の広い、粗いピッチ数のものが主流です。また、横方向のみ2.5mmピッチで、縦方向は一つ飛ばしの5mmピッチといった製品は昔からありましたが、どうしても映像は粗くなります。今回、体験者が画面にかなり接近することを想定していたため、非常に高精細な映像が求められ、「縦横ともに2.5mmピッチ」であることが必須条件となりました。そもそも縦横ともに2.5mmピッチの高精細かつ音を透過させるLEDディスプレイが実現可能なのか、まずはその検討から始まりました。業界に先駆けた取り組みだったため、試作機が完成するまでは、果たしてどのような製品になるのか、正直怖さもありました」

開発は、同プロジェクトでイマーシブサウンドを担当するヒビノのエンジニアスタッフと連携。LEDディスプレイを取扱う丹野にとって、音響は専門外の領域です。そのため、まずはエンジニアスタッフからスピーカーから音が出る基本原理や、XD HALLに使用するスピーカーの特性を学ぶことから着手しました。

そうして得た音響の知見をもとに「音が透過するとはどういうことか」という要件定義を行い、LEDディスプレイの構造を検討していきました。

丹野「音を通すためには、LED素子間に「透過穴」を設ける必要があります。高精細になるほど素子同士の間が狭くなるため透過穴を設けるスペースの確保が難しくなります。無理に穴をあけて基板の余白が狭くなると、今度はLED素子を支える強度が下がり、もろくなります。さらに、LEDパネルの裏側には電源などのいくつかの部品を取り付けるため、透過穴を設けることができるスペースにも制限がありました。厳しい条件の中で、お客様が万が一触れても問題ない強度を保ちつつ、音質をできる限り劣化させないよう、限界まで透過率を高めていきました。さらに基板設計も、通常と異なり、無数に空いた透過穴を縫うように配線を通す必要があり複雑な設計が求められました。そうした工程を経て音響透過型2.5mmピッチ「ChromaVision025」の試作機が完成しました」

LED素子の間に丸い「透過穴」が開いています

試作機の性能を確認するため、ヒビノグループで建築音響を手掛ける日本音響エンジニアリングの研究所にて、音響挿入損失や吸音率などの計測試験を実施。その結果、「体験価値を損ねるような著しい音質の劣化」や、「このLEDディスプレイに囲われた空間において、フラッターエコーなどを含む響きによる悪影響」は無視できるレベル、という裏付けを得ることができました。この結果を踏まえて、カプコンからも了承を得て量産へと進みました。

丹野「カプコンさんも透過性能を気にされていたので、データで証明し、ご安心いただけて良かったです。音の周波数や吸音率を測定できる研究所をもつ「音のプロ」がグループ内にいるのは非常に心強かったです」

ミリ単位のずれも許されない円筒形シアターの施工技術

完成した音響透過型LEDディスプレイを「円柱型」として組み上げる工程もまた、技術的にハードルの高いものでした。

「円柱」といっても完全な円ではなく、59枚のLEDパネルをわずかな角度を付けて繋ぎ合わせた「59角形」の形をしています。LEDパネルを一周設置していったとき、施工の精度が低ければ、最後の一枚は「スペースが足らずに収まらない」、あるいは「隙間が空く」という事態になりかねません。仮に60角形であれば、1/4周した時点でちょうど90度になるため、角度を確認しながら施工を進めることができます(条件により60角形にできなかった背景については、ここでは割愛します)。しかし、割り切れない59角形では途中のチェックポイントを設けることができず、最後の一枚をはめ込んで一周し終えるまで、成功かどうかがわかりません。加えて、2.5mmピッチの高精細LEDディスプレイは、隣り合うパネル同士のLED素子の間隔(画素ピッチ)を1mmもずらさず、均一に合わせなければなりません。図面上の許容される誤差は、わずか0.1mm。それ以上ずれると、LEDパネル同士の隙間が「黒い線」として見えてしまいます。画素ピッチを均一に保ちながら正確に角度をつけて円を作っていく、ミリ単位の調整が求められる施工でした。

LEDディスプレイ設置の下地となる「サブフレーム」の設計をヒビノグループの日本環境アメニティが担当。施工は同社とヒビノクロマテック Div.が行いました。日本環境アメニティは音楽ホールや放送スタジオ等の音響空間づくり、そして工場などの騒音対策を展開しています。

現場で施工にあたった日本環境アメニティの江川は、初挑戦となる難易度の高い施工でもこれまでの施工現場で培った知見から、成功への確かな見通しを持っていたと語ります。

江川「最後のつなぎ目がどうなるか、関係者全員が不安に思っていたはずです。ただ、万が一最後のLEDパネルが合わなかったとしても、手前のいくつかの施工をやり直すことで、最小限の手戻りで済むという見通しは立っていました」

日本環境アメニティ株式会社 江川

同じく施工にあたったヒビノクロマテック Div.の小川も当初から成功を確信していたといいます。

小川「LEDパネルは工場での製造過程でどうしてもわずかながらに個体差が発生します。今回ミリ単位の施工精度が求められたため、設計図通りに進めつつも『現場合わせ』を必要とする場合もありました。ただ、僕も『出入口となる扉部分で調整すればいける』と当初から確信して、施工に臨みました」

実際には、手戻りなしの一発成功。スムーズに最後のLEDパネルがぴったりはまった時、現場は拍手に包まれました。

ヒビノ株式会社 ヒビノクロマテック Div. 小川

写真中央に2か所扉を設置。壁の隙間を極限まで狭めた設計で高い没入感を実現

XD HALLの設計・施工は、小川の言葉にもあった出入口となる片開き扉の機構や、天面に設置するプロジェクター6台分の投影口を設ける必要がありました。片開き扉は、厚さ約40cmにもなり、開閉時に扉の内側と外側で異なる軌跡を描くため、どうしても壁との間に隙間が生じやすくなります。それでも映像の没入感を損なわぬよう、その隙間を1cm以下に抑えることを目標に設計と施工を進め、最終的に6〜7mmほどに収めることに成功しました。

こうしたいくつもの調整を経て、XD HALLの圧倒的な没入体験を支えるハードウェアが完成しました。

今後の展開。音に包まれる映像体験を、あらゆる空間へ

丹野「カプコンさんの『クオリティへのこだわり』に応える形で、XD HALLをLEDディスプレイで実現することができ今は本当にほっとしています。今回得られた『高精細な音響透過型LEDディスプレイ』のノウハウは、今後より幅広い空間演出に応用できると考えています。

最近イマーシブな空間演出が増えていますが、プロジェクターで再現しようとすると周りを暗くしないと難しい。LEDディスプレイは自発光で明るい場所でも綺麗な映像を提供できるため、空間演出の可能性が広がったのではないかと思います。

また既存サービスへの活用も考えられるかと思います。例えば映画館において、音響システムはそのままに、スクリーンだけを音響透過型LEDディスプレイに置き換えるといった展開です。今後も映像と音を組み合わせた、ヒビノらしい提案に活かしていきたいです」

「高精細な映像とイマーシブサウンドを両立したい」というご要望からスタートした今回の開発。お客様からのご要望に対して「Can Not」とは言わず、グループの総合力を結集してその思いを現実のものにする。今回のプロジェクトは、まさにそうしたヒビノグループの姿勢を体現するプロジェクトとなりました。

納入概要

顧客 株式会社カプコン
納入施設 大阪・関西万博「大阪ヘルスケアパビリオン」XD HALL
展示(上映内容) 『モンスターハンター ブリッジ』
公式サイト https://www.capcom-games.com/mh-bridge/ja-jp/
運用期間 2025年4月13日(日)~2025年10月13日(月)
執筆:ヒビノGMC 経営企画グループ 広報課 宇塚 奈津美
担当事業部・グループ会社

LEDディスプレイ・システムの開発・製造・販売
ヒビノ株式会社 ヒビノクロマテックDiv.
https://chromatek.hibino.co.jp/

建築音響に関する設計・施工
日本環境アメニティ株式会社
https://www.nea-ltd.com/

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