2025.11.14
1964年の設立以来、音と映像の領域で業務用機器の販売・施工とサービスを手掛け、ハードを知り尽くすプロ集団として業界をリードしてきたヒビノ株式会社(以下、ヒビノ)が、2024年5月、映像制作の一気通貫体制を持つ CHグループ10社(以下、CH)を子会社化し、ソフト分野である映像制作サービスに本格参入。大型映像システムから映像制作まで、ハードとソフトの両面から「総合ビジュアルサービス」の提供が可能となりました。
グループ連携の推進が自身の役割の一つだと話すのは、CHの株式会社RECO(以下、RECO)です。2025年7月に出展した「コンテンツ東京2025」では、ヒビノ×CHの提供価値もアピールし、ヒビノが展示演出をサポート。完璧なカーブを形成できる最新鋭LEDディスプレイ「Topaz-C1.9」を用いた独創的な空間は、多くの来場者の注目を集めました。さらにこの日、初披露されたものに、ヒビノの次なる挑戦「生成AIによる映像コンテンツ」がありました。
この記事では、ヒビノ×CHの連携によってどのような未来が期待できるのか、RECOの代表でプロデューサーの勝村 紀昌さん、ヒビノで最新映像演出のプロデュースを手掛けるヒビノビジュアル Div.(以下、ヒビノビジュアル)東田 高典さんにそれぞれの視点から話を聞きました。
INDEX
【シナジー】1+1を3以上にする挑戦。ヒビノとCHグループのリアルと目指す姿
― CHグループとRECOについて教えてください。
勝村(RECO)
「CHは、一般的な映像制作から3DCGやライブ配信、AR、XR、VR、ドローン撮影、スチール、デザインやプランニングという映像制作のほぼすべてを担える67名、12役職を抱えていて、映像制作に関するソリューションをすべて提供・提案できるのが強みです。10社が映像制作の種類だったり、価格の幅だったり、役職の幅を補完しあって一気通貫体制を構築していますが、この中でも、1社で幅広くフレキシブルに対応できるのがRECOだと思っています」
― CHグループの複数社で組んでサービスを提供するのですか?
勝村
「ほとんどの制作は当社一社で完結できます。特にRECOとエルロイは、プランナーからディレクター、制作進行、撮影、編集まで一貫提供できるリソースを社内に持っているので。ただし、特殊技術が必要とされる制作、例えば二眼の立体視撮影、ドローン撮影、3DCGやAR、XR、が必要となったときには、CH各社にそれぞれのプロがいるので、6社とか7社で組む案件もあります」
― CHグループの中でもRECOは、当社ヒビノビジュアルと協同する機会が多いと聞きました。
東田(ヒビノ)
「CHと関わる機会が多いのは、ライブイベントのチームやXRのチーム、バーチャルプロダクションですね。コンサートのステージで流す背景映像やXR素材をCHグループに作ってもらったり、CMをヒビノのバーチャルプロダクションスタジオで撮りたいという相談を受けることも増えました。中でもRECOとは多く関わっています。ライブ映像からCM案件まで、いろいろ」
勝村
「僕の発想として、実務的にもヒビノグループの一員でありたい、そのためにも巻き込んでもらいたいという思いがあります。昨年5月に事業提携してグループになりましたが、形式上一緒になっているだけではシナジーは生みだせないので、まずは自分(達)ごとにしなければいけないと思いました。最初はスタジオ利用からが一番早いと思って、まずはバーチャルプロダクション撮影で。結果として、RECOがヒビノビジュアルと多く関われているのは、1回やってみようとか、1回助けてもらおうよという発想でまず声をかけて、一緒に取り組む中でしか作れないリレーションを築けたからだと思います」
― グループになって、変化やメリットは感じますか?
東田
「ありますよ。お客様から映像コンテンツ制作の相談があったときはもちろん、コンサートの全体を見られるクリエイティブな人材がいないかと相談を持ち掛けられたときも、CHからアサインしてもらいました。ソフトの領域でなにかあったら相談できる、そういう会社が身近にできたというか。我々がこれまで手をつけなかった領域なので、コンテンツまでヒビノグループで一貫対応できるというのは大きな変化でありメリットです」
勝村
「自分たちはコンテンツを提供することが軸足なので、ハードを提供するヒビノにソフトの相談があったときに声をかけていただいて、結果的にこれまで関わることのなかったお客様とご一緒できています。ほかにも、ライブ用の映像を Hibino VFX Studioやstudio PX ANZENで撮ることも多いです。スケジュールが限られていて、天候予備日もなく、撮りたいロケーションの数が多いとなると、その解はヒビノのバーチャルプロダクションスタジオしかないので。RECOとしては一番助けてもらっている部分です」
― ヒビノとCHグループの連携による「新たな提供価値」は、なんだと思いますか?
東田
「コンテンツ制作というか、企画そのものをクライアントに提案できるようになりました。CHはもともと企画から提案できますが、そこに我々ハードの技術と知見が組み合わさることで、より最先端で実現性の高い企画を構想できるようになったのは、両社にとって価値があると感じています」
勝村
「そういっていただけるのは、ありがたいです。企画にも種類があって、僕らは映像の企画は得意ですが、空間の企画となるとさらに広い視野が必要になると思っていて、強化していきたい部分です。どういう場で、どういうことをして、その中にどういう立ち位置でLEDディスプレイがあって、どういう意味で映像を作るのかってなってくると、企画の幅をもっと広げていかなければと思っています。映像制作ではなくて体験の制作というか、「空間」の提供みたいなところは、連携の役割であり課題だなと。現状だとヒビノに大型映像機材のご相談があって、そこに映す中身もつくれますか?という要望に対して、CHがコンテンツを提供するに、大半はとどまっています。ヒビノのハードとCHのソフト、持っているファクターからすると、空間ごと提供できる技術がそろっているので、例えばロケーションベースエンターテインメントを空間ごとプランニングできるとか、業態を広げていくことも課題と認識していて、ハブとなって推進するのがRECOの役割だと思っています。RECOは普段から業務の延長線上でCH全社と絡む機会が多いので、CHの中でも立ち回りやすい会社ですし、うまく連携をとってヒビノとCHの潤滑油としても機能できると、一番シナジーを加速できそうだなと考えています」
― これまでに、連携を強化するための取り組みがあれば教えてください。
東田
「両社で協業したり、進めていることは、色々あります。制作事例だと、Hibino VFX Studioでバーチャルプロダクション撮影した 眉村ちあきさんのミュージックビデオ「Hangover」は、ヒビノとCHで企画したプロジェクトです。狙いは色々ありましたが、その一つに、連携によるビッグプロジェクトの第一弾という要素がありました。実際にヒビノとCHの技術を掛け合わせると、どういうことができるかを、一人ひとりが具体的にイメージできたし、一つの案件として一緒に取り組めたのはよかったです」
勝村
「すべてを出し合いましたね。持っているものはもちろん、持っていないものまで頑張ってかき集めて、出せるだけ出し合ってつくれたという自負はあります。CGチームは特に学びが多かったと思います。実際に空間に絵を出せるバーチャル撮影だから、キャストさんは没入感を高めて芝居に臨めますし、グリーン合成よりなじみも良い。この実績をご覧になった企業さまからのお問い合わせもありましたし、実際にコンテンツ東京のRECOブースに足を運んでいただいたお客様もいました」
【カーブ対応LED】“四角い画面”からの飛躍。コンテンツ東京で証明した「Topaz-C 1.9」×「クリエイティブ」の圧倒的インパクト
― コンテンツ東京のお話がでましたが、RECOが出展した狙いを教えてください。
勝村(RECO)
「RECOはクライアントさんに企画からご提案することができるので、クライアント直の仕事を増やしたいという発想で出展を決めました。あのイベント自体がそういう狙いのものなので。また今回、ヒビノビジュアルから大型映像演出の協力を得られたことで、制作の領域がテレビやウェブCMなどの域を超え、イベントに絡む映像やコンサート映像まで手掛けていることも、エンドクライアントさんにより伝わったと思います」
― ブースに設置した、完全な曲面のLEDディスプレイ「Topaz-C 1.9」はいかがでしたか?
勝村
「あれが一番の集客力だったと思います。カーブを描いたあの大きさの画面が後方にあって、しかも自立している。まずインパクト。ブースの3方向は壁がないので、いきなり現れる異次元感というか。まず、Topaz-C 1.9がキャッチになって、そこで流れる映像の高精細さ。解像度も格段に高い。「曲がっている必然性があるもの」って、あまりないじゃないですか。そのインパクトがお客さんを呼んだのだと思います。必ずそこから話がきましたから。また、お声がけするときも「うわーLEDすごい」となっている人へは、それが会話のきっかけになりましたし。例えばイベントをやるのに二日間こういうのを借りるとすると、とか使いたい人はたくさんいるんです。ただ、持て余すかも、となったときに手前のカウンターの小さいサイズも同じLEDディスプレイだとお伝えして。まず大きい方を見せて、小さい方も見てもらって、このサイズにできるんだったらってお話しもできますし。Topaz-C 1.9がなかったら、集客はまったく違ったんじゃないかな。集客効果は、何よりありました。何が流れているかは、もはや関係ないんじゃないかとすら思いました」
― 画面に流れていたRECO制作の映像コンテンツが、ものすごくきれいでした。
勝村
「Topaz-C 1.9は、発色がすごくいいなと思って。RECOのロゴは、多様な形状の色とりどりなパーツをスタッフに見立てて、個として独立したそれぞれが、改めて組み合わさって一つを成すようなコンセプトなのですが、今回はそんな考え方や世界観を映像コンテンツ全体に反映したかったので、それをTopaz-C 1.9の発色が実現してくれました。思い通りの色が出るかは、ハードの精度によるのでTopaz-C 1.9が持つ色再現力は大きかったですし、ヒビノビジュアルが現地で精密に調整して追い込んでくれて。LEDディスプレイの性能と、正しい色を引き出せる調整技術の両方があったからこそ、思い通りの色で表現できたのだと思います」
― ブースのデザインに「Topaz-C 1.9」を採用した理由は?
東田(ヒビノ)
「見てもらったように、Topaz-C 1.9は「インパクトのある空間」がつくれます。これまでの四角い武骨な塊という感じではなく、ソフトな印象をつくり出せる画面です。カーブさせたり、波打たせたり、インパクトのある表現が色々考えられるので、展示会にも非常に向いている機材です。過去にも、完全なカーブにできるLEDディスプレイは存在しましたが、自立する構造ではなく、吊り点が要ったり、見た目のスマートさがまったく違います」
― 現地で一目見て「なんか雰囲気がすごい!」と語彙力が追い付かない衝撃をドカンと受けました。洗練された空間という印象が強烈にあって、完全なカーブの画面ってすごく不思議な感じでした。
東田
「他にないインパクトがつくれますよね。今回の「Topaz-C 1.9」は超高精細の1.9mmピッチで、画面を間近に見る展示会イベントはもちろん、スチールの背景として波打った画面を仕込んで撮影したこともあって、抜群のインパクトでした。いろんな表現ができる画面なので、イベントに限らず多様な空間へ提案していきたいと考えています」
【AI】「AI×映像」でどう変わるか。コンテンツクリエイティブの未来
― コンテンツ東京のRECOブースでは、生成AIで制作したコンテンツも上映されましたね。
東田(ヒビノ)
「今年の6月に、生成AIを使った動画サービスを提供しているWIT COLLECTIVE合同会社(以下、WIT COLLECTIVE)とヒビノ、CHが手を組んで、 生成AIを映像クリエイティブに活用していく取り組みを発表しました。具体的なプロジェクトのスタートとして、コンテンツ東京のRECOブースで流す素材の一つに生成AIでつくった映像を加えて、紹介しました」
― 関係者の反応はいかがですか?
東田
「使ってみたい。興味がある。とは、やはりみなさん思われていて。注目の高さは感じています。我々も研究と活用をスタートさせたところなので、AIでなにができるのか、どこまでできるのか、これからの部分もありますが、ポテンシャルは秘めているので、いろんな活用ができると期待しています」
― AIを使って、どんなことができますか?
東田
「実案件でいうと、バーチャルプロダクションのCM撮影で、風景の動画や部屋の背景をAIで作って、出演者の背景に流しました。その精度を見たときに「これがAIでできるのか」、「これはちょっと違うステージにきたぞ」と、今後の期待が高まりましたね。あとは、本番だけじゃなくテスト段階でも、まず出力してみて「もう少しあおった感じ」とか「目の高さくらい」とか、でてきた意見を取り入れて、具体的なイメージですり合わせながら完成度を高めて、より本番に近いテストになったのもAIのいいところでした。ライブイベント案件だと、参加者の空想をその場でビジュアライズする体験型イベントをWIT COLLECTIVEと一緒にやりました。他にも、アーティストの言葉をもとに生成AIで作った映像をコンサートで流すとか、リアルタイムでアーティストのイメージを打ち込んで、その日にしか見られない映像でステージを演出するとか、立体視の Immersive LED Systemの3Dコンテンツ制作、3DCGの生成にも使えるはずだと思っています」
勝村(RECO)
「東田さんのいう通り、やれることはすごく広がると思います。今、誰もが生成AIを使いだしているので、業界全体がAIを制作に取り入れる時代になったときに、2段、3段上にいないといけないんだろうなとは思っています。この課題感は、我々以上にWIT COLLECTIVEさんが持っていると思うので、自分がいうことではないのですが。ただ、確実にヒビノとWIT COLLECTIVEは、親和性が高いので、方針が固まればいっきにブーストがかかるだろうと思っています」
【Next Step】ハードとソフトの力を束ねて向かう先。「総合ビジュアルサービス」の展望
― ヒビノとCHグループ、今後の展望をお聞かせください。
東田(ヒビノ)
「ヒビノビジュアルとしては、やはりコンサート、イベント、ロケーションベースエンターテインメント、バーチャルプロダクションも含めてコンテンツとどう向き合っていくかが、これから一層大事だと思っているので、そこをCHと一緒に、よりクオリティの高いものをスピーディーかつ正確に届けられるようになると、サービス力の向上につながると考えます。もしかすると、そういうところにもAIが活用できるかもしれない。これからは、コンテンツを企画して「これをやりましょう!」ってクライアントを動かしていけるようにならないとダメだろうなと思っていて。CHや協業しているパートナーと一緒になって企画して、クライアントにぶつけられるようになると、より面白いものがつくり出せるし、確度も高くなる。面白い企画と最新技術を組み合わせて、打ち出せるようにしていきたいと思っています」
勝村(RECO)
「短期的なところでいうと、まだシナジーが足りていないという自覚があるので、そこを加速させたい。CHのリソースとヒビノとの橋渡しじゃないですけど、つながっているラインがちょっと細いなと思っていて。シナジーの加速って抽象的ですが、これは、すぐにできるはずなのでサクッとやって。その先に、先ほどの空間ごと企画から提供できるスキームを構築して、5年とかそんな未来の話ではなく、割と早い段階で1件やってみたい。やはり1回やってみるって大事だと思うので。具体でいうと、中身だけ作るのではなくて「体験」の提案を早くやりたいなと思っています」
ハードの雄であるヒビノと多彩なクリエイティブ力を持つCHグループが融合して引き起こす映像体験の革新にどうぞご期待ください。
ヒビノGMC 経営企画グループ 広報課